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第七章 百部族会議

黄金の冠を見つけてから、二年が経った。

三匹は旅を続けた。冠を持ったまま。しかし使わなかった。ただ、いつも荷物の一番奥に入れておいた。

時々、オーレックスは眠れない夜に冠を取り出した。溶岩の光の下で見ると、黄金は静かに光った。その光の中に、あの日聞いた声が戻ってくる気がした。

「希望そのものである。」

二年間、その言葉が消えなかった。

二十五歳になった、ある日。

三匹は焚き火を囲んでいた。

「もう、部族同士の争いを終わらせよう。」

オーレックスが言った。

静かな声だった。しかし、揺るぎなかった。

「みんなで一つの国を作るんだ。」

スターリンはすぐに立ち上がった。勢いよく立ち上がりすぎて、持っていたカップを倒した。

「待ってました!!」

ピックバーグは倒れたカップを静かに起こしながら頷いた。

「ついに、その時が来たんだね。」

「でも、どうやって?」

「話し合いだ。」

「百以上の部族が、話し合いなんかするか?」

「する場を作る。」

オーレックスは言った。「来なかった部族には、また声をかける。」

「拒否されたら?」

「また声をかける。」

「……諦めないんだな。」

「当然だ。」

こうして準備が始まった。各部族の長に書状を送った。断られた。また送った。無視された。また送った。

半年かけて、百を超える部族の長を集めることに成功した。

後に「百部族会議」と呼ばれる、ネザーの歴史を変える集会である。


しかし会議は、始まった瞬間から大混乱だった。

広大な会議場に、百以上の部族長が集まった。しかし、そもそも同じ場所にいること自体が、彼らにとっては苦痛だった。

隣の族長を睨む者。

武器を置こうとしない者。

早々に席を立とうとする者。

「信用できるか!!こいつらが何をしたか知ってるか!!」

「先に攻めてきたのはお前たちだ!!」

「帰るぞ!!こんな場所にいられるか!!」

怒号が、石の天井に反響した。まるで全方向から攻撃されているようだった。

「駄目だ……。」

オーレックスは顔を伏せた。何百もの視線が自分に集まっていることを感じていた。しかし、言葉が出てこなかった。声を出しても、この怒号に飲まれる。

その時だった。

ドン!!

大地を揺るがすような音が響いた。全員が黙った。

スターリンが、巨大な斧の柄を床に叩きつけていた。両腕で振りかぶって、全力で。床に罅が入っていた。

「うるせえ!!」

スターリンの声は、怒号を上回った。

「少しはこいつの話を聞け!!」

全員の視線が、オーレックスへ向いた。

沈黙。

オーレックスはゆっくりと立ち上がった。膝が震えていた。見えないように、震えていた。

「僕は王になりたいわけじゃない。」

静かな声だった。しかし会議場に響いた。

「誰かを支配したいわけでもない。」

「ただ……」

「ただ、一つだけ聞かせてください。」

「争いで……何が残りましたか。」

誰も答えない。

「家族を失いましたか。」

誰かが俯く。

「仲間を失いましたか。」

また誰かが。

「村を失いましたか。」

「……。」

「僕は、両親を失いました。戦争で。」

「父は家族を守ろうとして。」

「母は他人を守ろうとして。」

「二人とも、帰ってこなかった。」

「それが、何十年も繰り返されてきた。」

「そんな時代を終わらせたい。」

声が震えた。しかし止まらなかった。

「一緒に生きよう。」

「一つの王国を作ろう。」

「争う力を、今度は守る力に変えよう。」

会議場が静まり返った。

長い沈黙。

誰も動かなかった。

やがて。

一人の族長が、武器をゆっくりと床に置いた。老いた族長だった。白髪で、顔に深い皴が刻まれていた。

「……もう疲れた。」

その声は、とても静かだった。しかし、全員に届いた。

また一人が武器を置く。「俺もだ。」

また一人。

また一人。

やがて、百以上の武器が床に並んだ。音が静かになっていくにつれて、広間の空気が、少しずつ変わっていった。

こうして。

百部族同盟が誕生した。

ネザーの歴史の中で、最も静かな瞬間に。


第八章 黒き牙

平和の夜明けは、まだ遠かった。

百部族同盟が誕生したその夜に、北の空が赤く染まった。しかしその赤は、溶岩の光ではなかった。

炎だった。

「北方の斥候から報告が来ました。」

使者が血相を変えて飛び込んできた。

「BLACK TUSK!北方の戦王が南へ進軍しています!!」

「軍勢は……?」

「数万。」

広間が凍りついた。

BLACK TUSK。

名前だけなら聞いたことがあった。北方を単独で制圧した戦士。黒い牙を持つ、最強の戦王。その言葉で語られる時、必ず「力こそ全て」という言葉が続いた。

「王国だと?笑わせるな。」

伝令が伝えた言葉は短かった。「弱者が集まったところで、力の前には無意味だ。蹴散らしてやろう。」

百部族同盟軍は動揺した。

「勝てない……!」

「数が違いすぎる!!まだ同盟ができたばかりで、連携も取れていない!!」

誰もが敗北を覚悟し始めた。

しかし。

オーレックスは逃げなかった。

逃げるという選択肢が、頭の中になかった。

「みんな。」

声を上げた。

「ここで逃げれば、また同じ悲劇が繰り返される。百部族が集まったことの意味が、消える。」

「戦おう。」

「力に力で挑むのか!?」

「いや。」

スターリンが前に出た。いつもの豪快な顔で。しかし目は笑っていない。

「知恵で戦う。」

ピックバーグが地図を広げた。

「勝機はある。地形を利用する。」

「具体的には――」

ピックバーグが作戦を語った。一時間後、全員が頷いた。

こうして。

黄金軍と北方軍の決戦が始まった。


戦いは激しかった。

三日間、昼も夜もなく続いた。ネザーに昼夜はないのに、三日が経った。

スターリンは最前線にいた。常に最前線に。一歩も下がらず、大斧を振り続け、敵を押し返した。体中に傷を負いながら、それでも笑いながら戦い続けた。

「俺が止まったら後ろの奴らが死ぬ!!だから止まらねえ!!」

ピックバーグは後方から指揮を取った。地形を読み、罠を仕掛け、軍を動かした。一度も剣を抜かず、ただ作戦を立て続けた。

「戦うより守る方が、犠牲は少ない。すべての命を守りたい。」

そして四日目。

ついに、オーレックスとBLACK TUSKが対峙した。

両軍が、一瞬だけ動きを止めた。

一対一の対決。

「……貴様が王か。」

BLACK TUSKは巨大だった。三メートルはある体躯。黒い牙は、名前の通り。その目は冷たかった。しかし、その奥に何かが見えた気がした。

「そんなつもりはない。」

オーレックスは正面から答えた。

「だが。あなたの進軍を止めなければならない。だから戦う。」

「ほう。」

BLACK TUSKが斧を構えた。「死にたいか、小僧。」

斧が振り下ろされた。

ガァン!!

火花が散る。剣で受け止めた。腕が、痺れた。力が違う。圧倒的に。

しかしオーレックスは下がらなかった。押し返した。前に出た。

激しい戦いが続いた。互いの息が上がった。互いに傷を負った。

やがて。

オーレックスが一瞬の隙をついた。BLACK TUSKの体勢が崩れる。剣先が、喉元へ向く。

止まった。

「殺せ。」

BLACK TUSKが言った。目を開いたまま。負けを認めたように。しかし、誇りを失わない目で。

「……。」

オーレックスは剣を見た。剣先を。その先にある、巨大な戦王の喉を。

「……もう終わりにしよう。」

剣を下ろした。

「……?」

「憎しみは何も生まない。」

「お前も苦しんできたはずだ。」

BLACK TUSKは動かなかった。

「力しかなかった。力で支配してきた。他に方法を知らなかった。だからそれで生きてきた。」

「知っている。」

オーレックスは言った。「でも、他の方法がある。それを、一緒に見つけよう。」

BLACK TUSKは長い間、動かなかった。

風がない。音もない。

やがて。

巨大な体が、膝をついた。

「……お前こそ王だ。」

その声は静かだった。

戦場全体が、静まり返った。

「戦王が膝をついた……。」

「あのBLACK TUSKが……。」

「力に勝ったのか?」

「違う。」

誰かが言った。

「力を超えたんだ。」

こうして。

長き戦乱の時代は、幕を閉じた。

静かに。誰もが疲れた顔で、しかし目に光を取り戻しながら。


第九章 建国

王国歴元年。

大陸の中央に、巨大都市が完成した。

GOLDEN BASTION。

黄金の要塞。

建設には三年かかった。三年間、百以上の部族が協力した。喧嘩もした。意見がぶつかることもあった。それでも止まらなかった。

「なんでそんなに熱心に作るんですか。」

ある日、若い職人にオーレックスが聞いた。

「先祖が作れなかったものだから。」

職人は答えた。

「争ってばかりで、何百年も作れなかった。だから今、作る。それだけです。」

その言葉を、オーレックスは忘れなかった。


GOLDEN BASTIONには、様々なものが作られた。

巨大な王宮。

広大な市場。

王立図書館。

中央駅。

そして、各部族の紋章が彫られた石板が、城壁に並んで飾られた。どの部族も、省かれなかった。あの会議で最後まで抵抗した部族も、BLACK TUSKの部族も。全員の紋章が、並んでいた。

「全員の名前を残す。」

オーレックスが言い続けたことだった。「勝者も敗者もない。ここに集まった全員が、建国者だ。」


王国歴元年の第一日目。

数十万の民が広場に集まった。

王立神殿の鐘が、巨大な音で鳴り響いた。その音はGOLDEN BASTION中に届いた。

スターリンは最前列にいた。腕を組んで。強がった顔で。しかし、目から水が流れていた。

「お前、泣いてるぞ。」

隣のピックバーグが言った。

「泣いてねえ!!目にゴミが入った!!」

「ゴミが両目に同時に入るのは確率的に稀だね。」

「うるせえ!!」

ピックバーグも笑っていた。珍しく、声を出して笑っていた。

祭壇の前。

オーレックスは立った。

あの日、古代の砦で見た冠が、今、目の前にある。

王立書記官が宣言した。

「ここに!」

「Aurex Goldtuskを!」

「PIGLIN KINGDOM初代国王!」

「KING PIGLIN Iとして即位せしめる!!」

鐘が鳴った。歓声が上がった。

「黄金王陛下万歳!!」

「KING PIGLIN I万歳!!」

「PIGLIN KINGDOM万歳!!!」

冠が、静かにオーレックスの頭上へ。

重かった。

あの日、砦で触れた時は軽かったのに。今は重かった。

しかし。

それは金の重さではなかった。

民の重さだった。

全員の希望の重さが、この冠にあった。だから重くて、だから下ろせない。

下ろさない。

初代国王となった彼は、民衆の前に立った。誰もが静かになるのを待って、それから言った。

「王国とは城壁ではない。」

「王国とは財宝ではない。」

「王国とは。」

「黄金の冠のもとに団結する民そのものである。」

歓声。

涙。

笑顔。

真紅の森で空を見上げていた少年は、今や、黄金の冠を戴く王となっていた。

二百年続く黄金王国。

PIGLIN KINGDOM。

その歴史は、この日、ここから始まった。


終章

夜だった。

ネザーに夜はない。しかし、この日は夜だと思った。

王宮のバルコニーに一人立ち、オーレックスは空を見上げた。見慣れたネザーの天井が、今日は違って見えた。星がある気がした。

「本当に王様になっちゃったな。」

自分に言い聞かせるように、呟いた。

「お前が言うと笑えるな。」

後ろからスターリンが笑った。「最初からそうなる運命だったんだよ。」

いつの間にか、スターリンが隣に立っていた。相変わらず大きな体で、大斧を担いで。

「運命じゃない。」

反対側にピックバーグが立った。

「君が選び続けた結果だ。」

「助けることを選んだ。戦うことより守ることを選んだ。冠を置いて去ることもできたのに、王になることを選んだ。全部、君が選んだ。」

三人は並んで立った。

あの日、真紅の森の残骸の中で並んで旅を始めた三匹が、今、黄金王国の王宮のバルコニーに立っていた。

何かが変わった。

しかし、何も変わっていない。

「なあ。」

スターリンが言った。「これからどうすんだ?王様になって、戦争も終わって。やることあんのか?」

「ある。」

オーレックスは答えた。「山ほど。王国を作ることと、維持することは違う。これからが、本当の始まりだ。」

「……なんかそれ、旅に出る時にも似たようなこと言ってたな。」

「言ったかもしれない。」

「つまりまだ旅は終わってねえってことか。」

「そういうことかな。」

三人は笑った。

笑い声が、夜に消えた。

いや、夜ではない。しかし、笑い声は消えた。

消えた後も、温かさだけが残った。

三人は知らなかった。これから訪れる、新たな脅威を。黒曜石戦争の始まりを。失われた古代文明が目覚める予兆を。王国最大の危機が、すでに動き始めていることを。

しかし。

今この瞬間だけは、三人は笑っていた。

それで、十分だった。


PIGLIN KING

第一巻 黄金王の誕生

Long live the Piglin King!