第五章 絶望
初戦。
世界連合軍は、敗北した。
撤退した兵士たちは、誰も口を開かなかった。
焚き火を囲んでも、笑い声はなかった。誰もが、目の前で消えた仲間の姿を、思い出していた。
「勝てるのか……?」
若い兵士が、震える声で呟いた。
その問いに、誰も、答えられなかった。
王都 GOLDEN BASTION。
作戦会議。
並んだ元帥たちの顔には、暗い影が落ちていた。
「通常兵器は、通用しません。」
「接近すら、不可能です。」
「戦力差が、大きすぎる。」
報告が一つ上がるたびに、室内の空気が、重くなった。
静寂。
長い、長い静寂が、会議室を支配した。
その時。
「なら。」
オーレックスが、立ち上がった。
「方法を探そう。」
「必ずある。」
それは、根拠のある言葉ではなかった。だが、ずっと昔から、何度も口にしてきた言葉だった。目の前の困りごとに、答えがないはずがない――そう信じて、村を救い、橋を架けてきた。今度も、同じだ。
その言葉に。
スターリンが、笑った。久しぶりの、いつもの笑い方だった。
「そうこなくっちゃな。」
ピックバーグも、微笑んだ。
「諦めるには、早い。」
第六章 古代文書
エンド帝国図書館。
数千年分の記録が、棚を埋め尽くしていた。
ピックバーグと、エンド帝国の学者たちは、昼夜を問わず、調査を続けていた。
蝋燭の灯りが、何本も燃え尽きた。
紫色の灯火が、何度も交換された。
それでも、答えは見つからなかった。
そして、ある夜。
「……あった!」
ピックバーグの声が、静かな図書館に響いた。
「何!?」
皇帝も、駆け寄った。彼の足音にしては珍しく、慌てたものだった。
古びた石板。
そこには、古代文字で、こう記されていた。
『竜王を滅ぼすことはできない。』
『ただし。』
『七つの結晶を破壊する時。』
『竜の力は失われる。』
「結晶?」
ピックバーグは、目を見開いた。
「エンドクリスタルだ!」
「奴の力の源!」
「壊せば、勝てる!」
スターリンが、勢いよく立ち上がった。
「だったら話は簡単だ!」
「ぶっ壊せばいい!」
しかし。
皇帝の顔は、険しかった。
「問題は。」
「その周囲を。」
「皇帝親衛軍ですら、近づけなかった。」
「竜の守護者たち。」
「七竜将が、守っている。」
その名を口にした皇帝の声には、わずかな苦みがあった。それが何を意味するのか、その時はまだ、誰も気づかなかった。
第七章 七竜将
数日後。
世界連合軍。精鋭部隊が編成された。
「俺たちで行く。」
スターリンは、斧を担ぎ直した。
「当然。」
オーレックスは、黄金の剣を握り直した。
ピックバーグも、荷物を背負った。
「嫌な予感しかしないけどね。」
そして。
皇帝。
ENDER EMPEROR。
「私も行こう。」
四人は、最強部隊を率いて、エンドの最果てへと旅立った。
その先で待つのは。
炎を操る竜将。
雷を操る竜将。
氷を操る竜将。
闇を操る竜将。
そして。
最強の第一竜将。
SHADOW。
エンド帝国最強の戦士。
数千年前、皇帝と共に戦った、英雄だった。
その名を聞いた瞬間、皇帝の足が止まった。
「まさか。」
皇帝は、絶句した。
「お前まで……。」
その声には、戦の前の緊張ではなく、もっと深い、個人的な痛みがあった。
SHADOWは、静かに答えた。
「皇帝陛下。」
「長い夢でした。」
「しかし。」
「私は竜王の側につきます。」
「世界は。」
「一度終わるべきです。」
その言葉には、絶望に裏打ちされた、奇妙な静けさがあった。憎しみではない。むしろ、諦念だった。数千年生きた者だけが辿り着く、終わりへの憧憬だった。
第八章 英雄たち
激戦。
四つの戦いが、同時に始まった。
スターリン対炎竜将。
ピックバーグ対雷竜将。
皇帝対氷竜将。
そして。
オーレックス。
黄金王対第一竜将SHADOW。
ガァァァン!!
黄金の剣と、黒曜石の大剣がぶつかり、衝撃波が大地を割った。
「強い……!」
スターリンも、隣の戦いの音を聞きながら、息を呑んだ。
「なんなんだこいつら!」
しかし。
「負けるか!」
スターリンの大斧が、炎竜将を打ち破った。
「はぁ……。」
「もう二度とやりたくない……。」
ピックバーグも、辛うじて、雷竜将に勝利した。手が、まだ震えていた。
皇帝も、氷竜将を倒した。
だが。
最強のSHADOW。
彼の剣は、圧倒的だった。
「黄金王。」
「あなたは、優しすぎる。」
「だから。」
「勝てない。」
ガァン!!
オーレックスの剣が、弾き飛ばされた。
「陛下!」
スターリンが、叫んだ。
その瞬間。
皇帝が、飛び込んだ。
「やめろ!」
ズドン!!
「……!」
SHADOWの剣が、皇帝の胸を貫いていた。
時間が、止まったように感じられた。
「皇帝!」
ピックバーグが、叫んだ。
SHADOWも、目を見開いた。
「陛下……?」
静寂。
倒れる皇帝。
そして。
怒り。
悲しみ。
絶望。
それらが、オーレックスの中で、一気に渦巻いた。
目から、涙が流れた。
「どうしてだ……。」
「どうして……。」
皇帝は、微笑んだ。痛みの中で、それでも、微笑んだ。
「黄金王。」
「希望を。」
「捨てるな。」
「世界を……。」
「頼んだ。」
その言葉を残し。
エンド帝国皇帝。
ENDER EMPERORは、静かに、目を閉じた。
数千年を生きた王。
最後まで、民を愛した王だった。
そして。
怒りに震えるオーレックスは、再び、黄金の剣を握った。
「SHADOW。」
「もう。」
「終わらせる。」
その時。
遠くで、エンダードラゴンの咆哮が響いた。
ゴォォォォォ!!
七つの結晶。
残るは、あと一つ。
そして。
世界の運命を決める、最後の戦いが、近づいていた。